はじめに
エネルギー変換・貯蔵デバイスは,私たちの生活や産業を支える基盤であるとともに,低炭素社会実現の鍵であるエネルギー利用の高効率化も担っています.デバイス高性能化や新デバイス実現は,優れたエネルギー変換・貯蔵機能を有する新物質・新材料の創製に懸かっています.平山研究室では,リチウムイオン電池,全固体電池などの蓄電池に利用される固体イオニクス材料を主な対象とし,新物質探索,マルチスケール空間制御に立脚した新材料開発や現象解析に取り組んでいます.研究キーワード
固体化学,無機合成化学,固体イオニクス,電気化学,光電気化学,リチウムイオン電池,全固体電池,光蓄電池,イオン導電体・混合導電体,電気化学界面解析・制御,量子ビーム反応解析

新たなエネルギー変換・貯蔵物質の創製
エネルギー変換・貯蔵デバイスの理論性能は構成物質の機能で決定づけられ,新しい機能物質の創出はデバイス性能向上や新規デバイス実現のブレークスルーを導きます.私たちは,固体イオニクスの基礎学理を手かがりに様々な合成手法を駆使し,これまでにない化学組成や結晶構造(原子配列)を有する物質を見いだし,イオン導電性やエネルギー変換特性などの物性開拓を行っています.具体的には,超イオン伝導体(イオンが固体内をあたかも液体中のように動き回る物質),インターカレーション物質(イオンを固体内に挿入・脱離することで電気-化学エネルギー変換できる物質),蛍光体(異なる波長の光にエネルギー変換する物質)などを見いだしています.
リチウム超イオン伝導体
Nature Mater., 10 (2011) 682
Nature Ener., 1 (2016) 16030
Chem. Mater., 32 (2020) 8860
Nature Ener., 1 (2016) 16030
Chem. Mater., 32 (2020) 8860

リチウムインターカレーション物質
J. Power Sources, 196 (2011) 6809
Mater. Res. Bull., 47 (2012) 79
Electrochemistry, 83 (2015) 820
Mater. Res. Bull., 47 (2012) 79
Electrochemistry, 83 (2015) 820

(近)紫外光励起蛍光体
J. Lumin, 128 (2008) 1819
J. Solid State Chem., 182 (2009) 730
特開2009-179692
J. Solid State Chem., 182 (2009) 730
特開2009-179692
リチウムイオン電池材料の開発
リチウムイオン電池は,正極内と負極内とをリチウムイオンが可逆的に行き来する電気化学反応で動作します.エネルギー密度や充放電効率に優れ,現在最も最も広く普及している蓄電池です.性能向上を目指した材料研究の重要性もさらに増しています.しかしながら,リチウムイオン電池の反応場はたいへん複雑で,物質探索で見いだした電子・イオン導電性を蓄電デバイス内で実際に利用するための材料研究が重要です.特に,電極と電解質間の数nmスケール界面で反応が進行するため,界面での構造や副反応が電池性能に影響します.さらには,反応とともに化学組成と構造が時間的・空間的に変化していきます.私たちは,異種物質で電極表面を修飾し,初期表面の化学状態を変化させることで,充放電時に形成される電極表面の結晶構造や副反応で生じる被膜(SEI)の構造を制御することができ,入出力と安定性が向上することを明らかにしています.
固体電解質修飾によるリチウムイオン電池正極表面の構造安定化
J. Mater. Chem. A, 2 (2014) 17875
J. Power Sources, 307 (2016) 599
J. Phys. Chem. C, 122 (2018) 16607
J. Power Sources, 307 (2016) 599
J. Phys. Chem. C, 122 (2018) 16607

リチウムイオン電池正極表面の化学結合状態による表面被膜の構造制御
J. Electrochem. Soc., 165 (2018) A3221
Batter. Supercaps, 2 (2019) 454
Batter. Supercaps, 2 (2019) 454
全固体電池の材料開発
リチウムイオン電池よりもさらに多くのエネルギーを蓄え,信頼性にも優れる蓄電池が期待されています.可燃性有機電解液に代えて,無機固体電解質を利用する全固体電池が次世代蓄電池の候補として注目されるようになりました.これまで全固体電池の最大の課題は,固体電解質のイオン導電性向上でした.私たちは2011年にリチウムイオンが液体並みに動き回る固体物質(超イオン伝導体Li10GeP2S12)を見いだすことで,全固体リチウム電池の充放電動作を報告しました.電池動作が可能になり,セルのスケールアップを狙う段階になると,サイクル時の形態変化や大気安定性などの課題が明らかになってきました.解決には,地道な物質探索(原子スケールの構造制御)と並行して,nm〜µmスケールの組成構造まで開発し,マクロな導電性や安定性を改善していく必要があります.固体と固体の界面を活用した電気化学デバイスはこれまでなく,イオンや電子のやりとりや移動がどう起こるか明らかでないため,基礎学理の構築も合わせた材料開発に取り組んでいます.
全固体電池用電極複合体の開発・微細構造制御
Chem. Mater., 28 (2016) 2634
Mater. Trans., 57 (2016) 549
Solid State Ionics, 285 (2016) 136
Mater. Trans., 57 (2016) 549
Solid State Ionics, 285 (2016) 136

全固体電池用電極・固体電解質の高機能化(高電圧安定化,化学安定性向上)
submitted
電気化学界面における現象解析
新物質・新材料創製の手がかりを得るには,機能発現や電気化学反応の機構解明が必要です.特に複雑な界面現象を理解するために,私たちは薄膜合成法で原子レベルに制御したモデル界面を構築し,最先端の物理化学的手法で電池反応場の界面構造を直接観測する解析手法を世界に先駆けて実現しました.具体的には,単結晶基板上に単一配向した数10 nmのエピタキシャル膜電極でリチウムイオン電池のモデル界面を作製し,放射光X線表面回折,中性子反射率,硬X線光電子分光などで観測します.この手法を用いて,µmスケールの電池材料のなかに埋もれている電極表面や電解質側界面の構造を調べてみると,電池反応初期に材料内部とは異なる構造に変わることがわかりました.リチウムイオン拡散,電極材料溶出,電解質成分の分解など,これまで理由付けが十分でなかった電池界面現象の理解を進展させ,材料開発にフィードバックするべく研究を進めています.近年は全固体電池の界面現象解析に展開し,固体系ならではの真空系(電子顕微鏡,原子間力顕微鏡など)を活用した現象解析にも展開しています.

放射光X線表面散乱による電極表面構造の反応面依存性と電極特性の関連
J. Power Sources, 168 (2007) 493; Chem. Mater., 21 (2009) 2632; J. Am. Chem. Soc., 132 (2010) 15268 ; Chem. Comm., 51 (2015) 1673 ; J. Power Sources, 382 (2018) 45

電極/固体電解質モデル界面の構築と反応解析
Dalton Trans., 42 (2013)13112
J. Am. Cer. Soc., 100 (2017) 746
Acs Appl. Mater. Inter., 13 (2021) 7650
J. Am. Cer. Soc., 100 (2017) 746
Acs Appl. Mater. Inter., 13 (2021) 7650

金属空気電池の空気極/水溶液界面反応解析
Electrochemistry, 80 (2012) 834

中性子反射率法によるリチウムイオン濃度分布の直接観察
Electrochemistry, 78 (2010) 413
J. Mater. Res., 31 (2016) 3142
J. Mater. Res., 31 (2016) 3142
光イオニクス現象の開拓
光イオニクスとは,光照射により固体中のイオンが移動する現象を取り扱う学問分野です.光エネルギーで直接充電できる環境発電型蓄電池への応用が期待されますが,電解液が関与する副反応で劣化する課題があり,現象理解に至っていません.私たちは固体電解質や全固体電池の作製技術を活用して,全固体型光イオニクスデバイスを構築することで,副反応の課題解決に成功し,光照射によるリチウム脱離(光充電)を実証しました.この成果を基に,光イオニクス現象の原理検証や高機能化,材料開発に取り組んでいます.変換効率などの話をするのはまだまだ先ですが,固体/固体界面を活用する電気化学デバイスの新たな展開として力を注いでいる研究テーマの一つです.